東京タワーの近くのスタジオに行きました。一年前と同じように、アルトサックスを持って。僕がアルトサックスでスタジオ・ワークするなんて、年に一回か二回しかないんです。だから、これはかなりのシンクロ率と言って良いのです。
昨日まで僕は、かなり精神的にヤバい状態にいて、八ヶ月ぶりで旧友のレキソタン5くんと再会したりしていたのだが(苦笑・不整脈起こした。ちっくしょう)、もうその。一年後にもうしてまた東京タワーをサックスを抱えて見ている事が嬉しくて、何だか泣けてきた。
今日は小雨で、曇り空で、でもすごく良い天気だと思った。川、橋、高速道路、東京タワー、公園の緑、桜の名残、霧吹きみたいな雨が顔に当たる。
スタジオは赤羽橋という、麻布十番の近くで、要するにこれはアップフロントエージェンシーの物なんだけど(笑)。
仕事の内容は、これも一年前と同じく、馬鹿でも出来るような、日本のシティ・ポップス史の古典みたいな、誰でも知ってる曲の前奏と間奏と後奏を吹くのだが、
アレンジがシンバルズの矢野君なので、スティーリー・ダンみたいなコード進行がクールで、吹いていてとても気持ち良い。
ほんの十数秒、アルトサックスを吹くと、すぐに矢口真理の歌が始まった。
やっべー。やっべーぞー。と、僕はいきなりナイスになって、もう。何というか。躍動的かつ、うっとりとして彼女の歌を聴く。それで、彼女が歌い終わると、また僕がサックスを吹き出す。入れ違いに、ちょっと絡んだりしてね(笑)。
この気持ちを、一人でも多くの人に分けてあげたい。良い気分になったら、お金が入ったら、面白い話があったら、みんなに分けないと。すぐそう思っちゃう。みんなにどんどん。迷惑かも知れないのに(笑)。
でも本当に分けたいよ。もう持ち切んないんだもの。鬱屈してる人に。死にたい人に。今日、俺すげえナイスだったの。生きてて良かったあ。って。久しぶりに。こんな馬鹿馬鹿しいことでさあ。だから転がってるよ。どっかに。
矢口がまたしても一生懸命まじめに歌う。それに続いて、余裕綽々でサックスを吹く。彼女を横目でチラっと見ている感じ。バンドやってるあの感じ。
彼女の歌は、一生懸命だった(わかりますよね)。岩澤とは違う(当たり前だが・笑)、チャラとも、コジママとも、カヒミ姫とも。僕が今までご一緒してきた歌姫の皆様のどれとも違う歌だ。要するに、一言で言えば、頑張っている歌だ。
矢口が頑張って歌っている。
僕はもうナイス過ぎて椅子から立ち上がりそうになって、ほとんど泣きそうになるぐらいにナイスになってしまった。ドレドレミッミー。みたいな、本当に馬鹿みたいなソロを吹いているのに。
長い間忘れていた感覚が瑞々しく蘇ってきた。幸福感。ハッピー。ナイス。
ああ、生きて良かったなあ。って思ってしまいました。40にもなって、好きなアイドルの歌の前奏を吹いて、生きてて良かったなあと思ってる自分に、更に恥ずかしナイスが重なって、もう、僕はナイスの塊になって、ああもう本当に。
音楽の神様感謝します。またこうして、春が来て、ピンチが来ると東京タワーの下に導いてくださって。馬鹿みたいな歌謡曲でサックスを演奏させてくださって。僕のルーツを思い出させて下さって。
アッという間に仕事は終わり(自慢じゃないが、スタジオマンとしての僕は仕事が速くて良質と評判なのである。スリーテイク以上やったことがないのです)。でも、大満足だった。本当の満足は、短くとも後を引かないのである。体調が良くなった気分だ。
外に出ると、まだ世界は1時間しか経過していなくて、東京の川沿いの風景特有の、豪快な箱庭感は変わらず粋なもんだった。素晴らしい。顔に霧吹きを浴びながら、サックスを抱えて歩く。すごく久しぶりだ。ずっと忘れていたんだなあ。この感覚。
空を見て口笛を吹きまくった。散歩。川の匂い。車の騒音。街の景色。ちょっと通り過ぎるだけのヤクザな関係。シティ感。戦時下でも。街に生きる。
(via hyperf)


